昏睡屋は今日もお休み。-2-
ふとここに来る前のことを思い出していた。
いや、思い出して「しまった」んだけど。
夢の中のような、それでいて鮮明な空気に不思議な心地よさを感じる。
未だに目の前の幼女はカルテらしき資料を読んでいるし、私はこの白いコンクリートのような、奇妙な空間に慣れずにいた。
「あの…」
沈黙に耐えきれずに思わず声をかけてしまう。
幼女はこちらに見向きもしない。
「なんて呼んだらいいですかね…はは」
生き抜くために人一倍育てたコミュニケーション能力がここに来て裏切ってきた。
「…昏睡屋でいい」
淡々とした調子で返されてしまう。
(それにしても見た目的には小学生…いや、人を見た目で判断しちゃいけないのはわかってるけど…)
見た目に反して随分と大人びた態度は他人に対して愛想の良い私の調子を存分に狂わせていた。
「私…ここで何をすればいいんでしょうか…」
隠しきれない不安が口から飛び出してしまう。
少し攻撃的とも捉えられる発言に内心「やってしまった…」と1人で反省をしていた。
「自分で決めるんだ。」
「え?」
「今後どうやって生きていくのかを」
考える間もなく
一瞬
自分の奥底のマグマのようなものが
ぐっと頭に上がってくるのがわかった。
「そんなの…私は生きたくなかったから自殺したのに!!」
思ったよりも大きな声が出てしまい、自分でも驚いていた。
ハッとして幼女の方を見る。
声を荒げた私に対して昏睡屋を名乗るその幼女は
吸い込まれそうになるような、落ち着いた目でこちらを見つめていた。
どうしていいかわからず困惑する私に、幼女は呆れたような口調で言った。
「ああ、ここにはそういう患者が来るんだ。」
「そういう…って…」
「死ぬという行為を勘違いしている者だ。」
ぐるぐると渦巻く思考の中、ポンと放り込まれたのは、私が考えもしなかったことだった。
私の中では勝手に「死は救済」と認識されていたのだから。
続く(かも)