昏睡屋は今日もお休み。-1-
冷たく、硬い感触。
「あれ……死んだか」
床に倒れていた少女【輪廻】は自分の死がさも当然のように呟く。
首への圧迫感と息が詰まる感覚がまだ残っている中、輪廻はよろよろと立ち上がる。
辺りを見渡すと白い質素な空間に白い椅子2つが白いテーブルを挟んでぽつりとあるだけ。
「あの世随分と殺風景だな…」
そこに小さい頃思い描いていたようなわかりやすい死後の世界はなく、少しの落胆と驚き混じりにそう独り言を放った。
そこへ思いもよらぬ音が響く。
「あの世じゃない、昏睡屋だ。」
妙に落ち着いた、それでいてよく通る、頭に残るような声。
急な後ろからの声に驚き、反射的に振り向く。
そこには落ち着いた声とは裏腹に
薄いピンクのような紫のような髪を荒く2つにまとめ、肌は病的な青白さをし、変な衣服を着た
小学生くらいの女の子が立っていた。
「え…?」
「いいか、今キミは生と死の間にいる、昏睡状態だ。体は今頃病院の集中治療室でギリギリ生きている状態だろう。」
容姿や声ばかりに目が向いて急な情報に全く頭が回らず、ほとんどが輪廻のもう一方の耳から流されてしまう。
(えっと…まだ死んでないのか…)
回らない頭で幼女の説明をぐるぐると思い返しているうちに当の幼女はさっさと椅子に腰掛けていた。
「本体の意識はないが、時間は余るほどある。」
淡々とした口調で喋る幼女はなにやらカルテらしい輪廻の資料を流し読みしていた。
「まぁ、座りなよ。」
だらしない格好で椅子に座りながら幼女はそう言ったのだった。
続く(かも)